後安美紀の仕事


 歩いたり、しゃべったりといった人間の何気ない行為の成立過程を明らかにしていくことです。方法論として、演劇における俳優や演出家の行為を取り上げています。具体的には、平田オリザ氏や故太田省吾氏が作、演出した舞台稽古にフィールドワークに出掛け、そこで見られる俳優の身体表現方法や演出家のことばから、リアルな行為とは何かを考えてきました。

 また応用テーマとして、刑事裁判の文脈で冤罪が疑われる被疑者の供述分析もおこなっています。現在は、冤罪であることが確定した足利事件の供述分析に心理学者チームで取り組んでいます。

 最近では、造形作家の岡ア乾二郎氏との共同研究も始まり、芸術として尖鋭的にあらわれてくる人間の表現行為の可能性について考える機会も増えました。

 演劇、芸術、裁判、ロボットと、一見何の脈絡もなくばらばらなテーマのように思われるかもしれませんが、そこでは、日常生活では考えられないほど拘束のかかった「不自然な」条件下で、それでもなお懸命に、人間が世界のなかに意味を見出し、他者と関わろうとする姿が見られます。